レッスン1

シーケンサーおよびロールアップの基本事項

本モジュールでは、シーケンサーの概要、中央集権型および分散型シーケンサーの本質的な違い、ならびにロールアップの種類について解説します。各セクションは独立して構成されており、それぞれのテーマに的確に焦点を当てています。

シーケンサーとは何か

シーケンサーは、ロールアップの公開レイヤーにバッチ化・コミットされる前に、受信したトランザクションの順序を決定する役割を担うコンポーネントです。状態遷移の実行ではなく、シーケンサーは主に順序付けにおける書き込みロックの管理を担います。具体的には、ユーザーのトランザクションを収集し、ブロックまたはバッチに整理し、基盤となるデータ可用性レイヤーやベースレイヤーに提出します。この順序付けは、ロールアップノードで実行が行われた際のロールアップの状態マシンの変化に直結するため、極めて重要です。つまり、シーケンサーはトランザクションの順序およびタイミングを管理するゲートキーパーの役割を果たし、その設計次第でライブネス、検閲耐性、手数料収益モデルなどに大きく影響を及ぼします。

中央集権型シーケンサーと分散型シーケンサー

現在、多くのロールアップで採用されているのは中央集権型シーケンサーであり、通常はプロジェクトチームが運営しています。この方式では高速な処理やシンプルなガバナンスが可能ですが、単一障害点や制御の集中といったリスクが生じます。中央集権型シーケンサーは、トランザクションの検閲やシステム障害、一方的な方針転換を引き起こす可能性があります。これに対し、分散型シーケンサーは順序決定権限を複数の独立したノードやバリデータに分散させます。分散型ネットワークは検閲耐性やシステムの可用性を高めることができます。さらに、共有シーケンサーネットワークを活用すれば、複数のロールアップが共通の順序付けレイヤーを使用でき、各ロールアップが独自のシーケンサーを持たずともスケールメリットやより高い信頼性を享受できます。

ロールアップの基礎

ロールアップはレイヤー2のスケーリングソリューションで、スマートコントラクトやトランザクションをオフチェーンで実行しつつ、圧縮データや証明をレイヤー1ブロックチェーンに投稿します。主な方式は「オプティミスティックロールアップ」と「ゼロ知識(zk)ロールアップ」の2種類です。

オプティミスティックロールアップは、原則として全てのトランザクションが有効であると仮定し、処理後に不正証明が提出される仕組みです。これに対し、zkロールアップは暗号技術による有効性証明を計算し、簡潔な証明をベースレイヤーに投稿します。

両方式とも、シーケンサーを用いてトランザクションを順序付け・バッチ化します。オプティミスティックロールアップでは、シーケンサーがバッチを作成し、その内容は後にチャレンジゲームで検証されます。zkロールアップでは、シーケンサーがトランザクションの順序を決定し、証明が検証されると即座にトランザクションが最終化されます。

シーケンスと実行の違い

シーケンス(順序付け)と実行は、ロールアップアーキテクチャにおける別々の工程です。シーケンスはオフチェーンで実施され、トランザクションを集約してブロック位置を示す情報とともにタグ付けし、最終化のために提出します。実行はその後、ロールアップノードが順序化済みのデータを取得し、状態マシンに適用して新しい状態を計算します。一部のシーケンサーデザインでは、シーケンサー自身がトランザクションの実行まで行うことで、処理前にトランザクションの結果を把握でき、アトミック実行が可能となります。一方、シーケンス処理と実行を明確に分離する設計も存在し、この場合、シーケンサーは各ロールアップの状態マシンを保持せずとも複数のロールアップに対応可能です。こうした「レイジーシーケンス」方式を採用することで、状態の肥大化を防ぎ、新しいロールアップの導入も容易になります。

共有シーケンサーネットワークの台頭

共有シーケンサーネットワークでは、複数のロールアップが1つの順序決定サービスに接続できます。各ロールアップが自前のシーケンサーを用意するのではなく、異なるロールアップ同士が共通の分散型ネットワークを通じてトランザクションの順序決定を行います。これにより、異なるロールアップを対象とするトランザクションを1つのバッチにまとめ、アトミックに含める(クロスロールアップ・アトミックインクルージョン)ことが可能となります。Astria、Espresso Systems、Radius、NodeKit、Rome Protocolなど、こうした基盤構築を推進するプロジェクトが登場しています。例えばAstriaやRomeでは、シーケンサー自体でトランザクション実行を行わない「レイジーシーケンス」により、検閲耐性の向上、高速な順序決定、MEV(最大抽出可能価値)の効率化を実現しています。

アトミックインクルージョンとアトミック実行の違い

アトミックインクルージョンとは、異なるロールアップを対象とした関連トランザクションを同じバッチにまとめ、すべてが同時に含まれるか、いずれも含まれないかを保証する手法です。これは、全てのトランザクションが実際の実行時に必ず成功することまで保証する「アトミック実行」よりも保証の度合いは弱くなります。シーケンスのみを提供し実行を行わない共有シーケンサーネットワークでは、アトミック実行までの保証はありません。例えばRollup Aでのロック処理とRollup Bでのミント処理が1つのバッチにまとめられても、一方がリバートすれば他方だけが成立する場合もあります。真のアトミック実行を達成するには、各ロールアップの状態マシンを認識できるシーケンサーや、トップオブブロック条件を施行するブロックビルダーが必要です。現行設計の多くはアトミックインクルージョンをサポートし、実行結果の保証はロールアップごとのロジックに委ねています。

シーケンサーデザインにおける課題とトレードオフ

大規模な共有シーケンサーの実現には様々な課題があります。実行を伴わないシーケンサーはロールアップ状態に依存せずスケールしやすい一方で、実行結果の保証はできません。逆に実行も担うシーケンサーは、各ロールアップごとの完全な状態管理が求められ、ロールアップが増加すると運用が非現実的になります。経済的なブートストラップも障壁です。信頼性ある共有ネットワークの構築には多額の経済的ステークが求められ、各プロジェクトはトークノミクス設計や既存バリデータの活用などで十分な担保力を確保しなければなりません。さらに共有型シーケンサーネットワークには、中央集権型シーケンサーに匹敵する高い可用性・低レイテンシー性能が求められるなど、パフォーマンス面での工夫も不可欠です。

免責事項
* 暗号資産投資には重大なリスクが伴います。注意して進めてください。このコースは投資アドバイスを目的としたものではありません。
※ このコースはGate Learnに参加しているメンバーが作成したものです。作成者が共有した意見はGate Learnを代表するものではありません。